死とテクノロジー

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最近は死とテクノロジーについてひいひいしながら考えている。新作の「デジタルシャーマン・プロジェクト」では人類にとって普遍的な課題である「死」というテーマに真正面からぶつかるから、若干尻込みつつ、しかしこれは取り組みがいのある主題だとも思っている。文化圏や個人によって、様々な見解があるこのテーマ。派手に炎上した前作「ペッパイちゃん」に懲りずにまた炎上するかもしれないけれど、自分なりの最適解を見つけるべく、踏み込んでいきたい。

 

どうしてこうなった

そもそも、なぜこんな厄介なテーマを取り扱うことになってしまったのか。

事の発端は文化庁のメディア芸術クリエイター育成支援事業に「デジタルシャーマン・プロジェクト」という新作企画を採択していただいたこと。
宗教とテクノロジーの接続というのはずっとやりたかったテーマで、東京都現代美術館で2012年に開催された若手作家向けコンテスト「ブルームバーグ・パヴィリオン・コンテスト」でも「@micoWall」という脳波で祈祷する神社の企画で受賞したこともあった。

しかしこれまで作っていた、ある種のアホさや明るさを含んだ「性×テクノロジー」というテーマとは違い、「死」や「宗教」は複雑でデリケートなテーマで、覚悟がないとなかなか踏み込みにくい。あとは社会人でイチからその分野についてリサーチをするような時間と環境がなく、新しいテーマについて作品を作ることがなかなかできず、二の足を踏んでいた。
そのため、自分にプレッシャーをかけて新作をつくるのに良い機会だと思って応募したのがこの事業だった。まさか採択いただけるとは思わなかったけれど。。
しかも採択審査面談のタイミングは「ペッパイちゃん」という作品で炎上してる真っ最中。官公庁としてのリスク考えたら採択しないよな、と思っていたので余計に驚いた。でも逆に、炎上中「私はなぜここまでして、知らない人たちにこんなに叩かれてまで、作品を作り続けているのか?」と自問自答しているタイミングだったから、発言に謎の凄みが入っていたのかもしれない(あくまで想像)。


とりあえず、知ったこと、考えたこと、気になったキーワードを散文的にだが並べていきます。特にWIREDの「死の未来」特集はめちゃくちゃ示唆的だった。映画「her」も「トランセンデンス」も。

 

弔いのスタートアップ

弔いの形も時代と共に変わる。WIREDでは死の未来を作り出す、弔いのスタートアップが紹介されていた。

Promessa Organic AB では「フリーズドライ葬儀」を提案している。故人を完全な粉末状態にするエコ葬儀。

MyLifeRevelation では、生前にメッセージなどのコンテンツを残すことができ、亡くなったタイミングで信頼できる知人(見張り役)の連絡をうけ、公開される。

Everlasting Footprint は、残された人々が故人との思い出や写真をシェアし、オンライン版の人生録を残せるサービス。

他にも、ソーシャルアカウント閉鎖代行なんていうものもあるそうだ。日本だと、Yahoo! エンディングなどの終活サービスや、宇宙葬というものもある。 

墓標は恒久性の高いアーカイブ

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上記の弔いのサービスを知り、その斬新さに驚く一方で、しかし「故人の情報」というものを長期保存するのにインターネットは信頼に足りうるのか、という問題も感じた。テクノロジーのトレンドの流行り廃りは早い。Webの世界では今日も様々なサービスが立ち上がる一方で、クローズしていってしまう。自分の父親の情報を預けたそのサービスが、クローズしてしまったら?と考えただけで、いたたまれない気持ちになる。実際、MyLifeRevelationはすでにアクセス不可能になっていた。

その点、お墓はすごい。どれだけテクノロジー環境が変わろうと、頑としてそこに「物理的に」存在し続ける。その人が生きてきた証になる。何千年も前から続いている文化なだけはある。

しかし問題になってくるのがその維持コストだ。地価の高い都会では物理的な墓標を後世にまでずっと保存していくことのコストがかなり高い。また、人口が過密する都会は、大量の死者が発生する、ということと同義だ。一人一人の墓標を作っていったとして、死者の墓地の専有面積は都市の面積を少しずつ逼迫していくことが予想される。

かといって、遠方に墓地を作った場合、定期的にそこを訪れ、故人を思い出すというハードルも高い。「定期的に思い返す」ためには、墓地は住人から心理的に身近な場所である必要がある。

都市生活における墓地をめぐるこのようなパラドックスをどう解決するか、私たちは考えはじめなければならないのだと思う。

   

故人との非言語コミュニケーションを可能にする、ロボットという依代


映画『her/世界でひとつの彼女』予告編

作品制作の参考として映画「her」や「トランセンデンス」といった映画を見ていて、ああそうか、人工知能との対話では「言語」が今のところ重要と思われているのだな、と気がついた。しかし、言葉でしかコミュニケーションできないもどかしさ、身体がないことについての悶々とした描写も含まれていた。

「そこにいない何者か」とコミュニケーションを取ることにおいて、身体があること、非言語のコミュニケーションができること、というのは案外重要なファクターなのかもしれない。少なくとも、稚拙であれ、ロボットという依り代を使えばそれが可能になる。これらは身体を持つからだ。

 

 

以上、作品制作のヒントを得るためのいくつかのリサーチのメモを記していった。

新しいテーマに着手するときは、自分の頭の中に、新しい興味の種を育てている感じがあり、楽しい。どういう方向性に着地するかわからなくてこわいけれど。
どうなるかわからないが、とても不安だが、がんばります。